仙台高等裁判所 昭和42年(う)344号 判決 1968年3月28日
本店所在地
福島県会津若松市追手町五番六号
名称
会州商事株式会社
代表者住所
福島県会津若松市川原町二〇三番地
代表者氏名
安部勝美
本籍
福島県会津若松市川原町一番一六号
住居
同県同市町一番一六号
職業
会州商事株式会社代表取締役
氏名
安部勝美
年齢
明治三八年一二月二一日生
右両名に対する法人税法違反被告事件について、昭和四二年一〇月一八日福島地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人両名の原審弁護人からそれぞれ控訴の申立があつたので、当裁判所はつぎのとおり判決する。
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件各控訴の趣意は、弁護人富岡秀夫名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
所論は、被告人両名に対する原判決の量刑は不当に重いと主張する。しかしながら、記録及び証拠物により明らかな被告人安部勝美が被告人会州商事株式会社の業務に関して犯した本件各犯行の動機、経緯及び態様、ことに、昭和三八年及び同三九年の各事業年度における被告人会社の所得はそれぞれ一〇、〇〇〇、〇〇〇円を越えるものであつたのに、原判示のような不正な方法により所得の一部を秘匿し、かえつて欠損を生じた旨虚偽の確定申告書を提出し、昭和四〇年の事業年度についても、実際の所得は四、〇〇〇、〇〇〇円を越えていたのに、前同様の方法により所得の一部を秘匿し、かえつて欠損を生じた旨虚偽の確定申告書を提出し、三事業年度で合計九、六七五、二五〇円にのぼる法人税をほ脱したものであること、被告人阿部勝美は被告人会社の業務全般をひとり統轄する地位にあつたものであること、被告人安部勝美及び被告人会社の資産状態、被告人安部勝美の年齢、経歴等諸般の情状を考え合わせると、本件各犯行後被告人会社に関するほ脱にかかる法人税(ただし修正申告書がなされている)及び重加算税等として合計二〇、〇〇〇、〇〇〇円を越える金額が納付されたこと、昭和三八年及び同三九年の各事業年度にかかる法人所得については、貸倒準備金の損金算入が税法上認められていなかつたこと等被告人両名のため有利に斟酌すべき事情を考慮しても、原判決が被告人会社を罰金一、六〇〇、〇〇〇円に、被告人安部勝美を懲役五月、二年間執行猶予に処したのは相当であつて、不当に重い量刑であるとはとうてい考えられない。また、所論のなかには、被告人会社に対し、重加算税を課したうえに罰金を科することは二重の財産的徴収にあたり不当であると主張する部分があるけれども、重加算税を課することは、納税義務者の納税義務不履行の行為を犯罪とし、これに対する刑罰として科する趣旨ではないから、重加算税と罰金を併科しても憲法第三九条に違反するものでないことはいうまでもなく(最高裁昭和三三年四月三〇日大法廷判決、民集一二巻六号九三八頁参照)、右併科を不当ならしめるような事情を記録上発見することもできない(なお、所論は、延滞税と罰金との併科をも不当であると主張するかのようであるが、延滞税は、本件についていえば、法人税が本来の納期限までに完納されなかつた場合に、その遅延した税額及び期間に応じて課される遅延損害金的な性質を有する制裁税であつて、その課税要件はほ脱犯にかかる罰金を科すべき構成要件と全く異なるものであり、これを併科しても、二重の財産的徴収にあたるということはできない。)。論旨は理由がない。
そこで、刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
検査官 中村源吉 出席
(裁判長裁判官 有路不二男 裁判官 西村法 裁判官 桜井敏雄)
昭和四二年(う)第三四四号
控訴趣意書
法人税法違反 被告人 会洲商事株式会社
法人税法違反 被告人 安部勝美
右の者等に対する頭書被告控訴事件につき、弁護人は控訴の趣意を左の通り弁明いたします。
昭和四二年一二月六日
右被告人両名弁護人
富岡秀夫
仙台高等裁判所
第二刑事部 御中
第一点
原判決は量刑不当であるから破棄せられるべきものである。
一、原判決は被告人会洲商事株式会社に対して罰金一六〇万円、被告人安部勝美に対して懲役五月(但執行猶予二年)の判決言渡を為した。
しかし乍ら左記事由があるから原判決は破棄せられるべきものである。
二、被告人等が量刑の不当の事由とするところは左の事実からである。
(一) 被告人会洲商事株式会社に対する罰金一六〇万円は重きに失する。
被告人会社は金融を目的とする会社であるところ、本件判示事実の通りの法人税法違反事件を惹起し、該違反については、その違法を認めて公訴以前にあつて既にその利得したる利益は固より、その額以上について行政罰として加算税延滞税等を懲収せられ、右納税義務を果たしている。
(会津若松税務署長作成証明書の通り)
行政罰としての加算税(延滞税も含む)は当然納付すべきものとの認定である。更正決定ではなく修正申告という形式によつてはいるが、脱税事件としての摘発捜査をうけ、且つ、新聞紙上にも掲載せられて居りその罰則として加算税であることは明白である。
被告人会社に対して行政罰の上に更に刑事罰を加うるということは株式会社という法人に対して二重の財産的な懲収を為すことであつて個人ならば別の思慮があるが、法人に対しては、その存立を抹殺することであるから不当と謂わねばならない。
(二)1 被告人安部に対する懲役五月(但執行猶予附)という体刑については、左の事由により重きに失する。
被告人安部は被告人会社の執行者として株式会社の為に判示事実の如き違反を侵したることであるが、その利益(納付すべきものを納付しなかつた金員)は悉く被告人会社に帰属し、個人としての安部は利得していない。
株式会社という組織よりみて本件はその会社の名を藉りて個人が利得したという事実は全く存しない。
2 被告人安部は判示事実の通り合計九六七万円の脱税の行為者として税制を乱したという責任を問われている。
しかし乍ら、その動機については参酌せられるべきであるが、原判決は之を認めていない。
通常法人(株式会社)の貸倒準備金として、その取引(売上)の五%は認められているところであるが、之は取引において取立不能をある程度税法上も認めている位に、倒産その他の事故が一般社会において生じていることを表示するところである。
被告人会社においては、資本金は一五〇万円であつて貸付金は他よりの借入金によつて賄われて来ているものである。
更に未収利息は昭和三八年より昭和四〇年と年毎に増加し且つその取立の為には多額の費用と労力を要しているところである。
脱税額九六万円余金員についても借入金の利息の返還とか取立の費用等については十分考慮せられねばならない。即ち九六七万円が全部被告人会社の利得とはなつていないということであるし、取立不能のものも含まれているところである。
被告人安部が被告人会社を維持してゆく為には、借入金の利息の支払いに追われて居り、一方回収も思うに委せず、且つ不能の債権も多いということになり、勢いこの為には過少の申告も亦止むをえない事情が存したのである。(過少申告によつて借入金の利息支払い取立不能分の穴埋め)
(三) 本件につき被告人会社は告発以前において捜査の段階で既にその業務は停止状態となり、業務は以来為していない。又、その上重ねて別表の通り本税につき合計一千四百二十八万三千四〇円加算税、延滞金につき、合計六百二十五万二千三百八十円也を納付している。結局被告人会社としてはすべての会社財産を投げ出して居り今後の業務については財産的根拠は存しなく解散せざるを得ない。
本件により被告人会社は、抹消せられたと同様の結果を招来した。従つて再犯ということもありえないのである。
(四) 被告人安部の場合は被告人会社の財産の悉くを提供しても到底本税加算税延滞税の納付は出来えないところ、個人の財産を処分して不足分は他より借入れして納付している。
被告人安部も亦、被告人会社と同様に既に本件告発以前において財的には懲罰を受けているところである経済人としての再起は不能なのである。
(五) 以上被告人等の情状は十分参酌すべきものがあるのに原判決は之を顧慮しないのは不当というべきであるから破棄せられるべきものである。 以上
告発と修正申告との差額納税額明細書
<省略>
加算税延滞税(修正申告に依る)明細書
<省略>